同じ時、藤木家にて、再び訪れた静寂。


壮介は、胸をなでおろし、母は残った茶を一気に喉に流し込む。


「・・・さて、それじゃあ布団でも敷きますか」


母親はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。


「最近使ってなかった客室、この前掃除しておいて良かったわ」


うれしそうに呟く後姿を、彼は見つめていた。


「・・・母さん」


「何?」


優しく微笑む母の表情に、不意に心を突かれた。


「・・・あのね、」


ただ、感謝を伝えたいと思っただけなのに。


上手く、言葉がでてこなかった。


むしろ、心の中には違う言葉が浮かんでいた。


必死だった自分の中に静寂が訪れたと同時に、違うものが生まれて来ていた。


それは、あまりに不透明な未来。


不確実要素で成り立つ未来が、彼の心に、じわじわと不安を生みだしていた。


保障されない未来に望む、ただ一人の人。


その人と未来を描くことさえ、彼に資格は無い筈だった。


高望みをし過ぎているのか。


希望なんか見えない。


ただ、不安だけが募っていく。



「・・・もしも、もしもだよ・・・」


もしも。


仮定を表すその言葉を用いる時、


大方それは、否定的な未来を予測する事が多い。


彼も、その例外ではなかった。


「・・・幸花さんと・・・もう、2度と・・・」


そう言いかけた時、母は振り向いて、彼のそばに歩み寄った。


そして、突然その口を塞いだ。


「ダメ」


「・・・?」


「もしも、なんていう未来は存在しないの」


静かに、そう彼女は言った。