「・・・はぁ、やっぱりこうしてはいられないですよ」


隣でゆっくりとお茶を飲む藤木の母に業を煮やしたのか、


さっきから牧は座っていた座布団から立ち上がったり、


部屋中をぐるぐる当てもなく歩き回ったりしている。


「まぁまぁ。大丈夫ですって。直に帰ってきますから」


「そんな悠長な事を!藤木君は男だから良いとしても、幸花さんは女性で・・・」


「うちの壮介は女性1人位守れますから」


その一言に、牧が口をあんぐり開けた。


「・・・何で壮介君が・・・」


そんな牧を尻目に、彼女はずず、とお茶を飲み続けた。


「こんなタイミング良く2人が居なくなるなんて、


経験則に照らしてそう考えるのが合理的でしょう?」


にっこりと笑う藤木の母の顔に、牧はだらしなく開いた口をふさぐのを忘れていた。


この母にして・・・。


そう口から出かかった言葉を飲み込み、彼は座布団の上に座った。


彼はそれ以上考えるのを止めよう、


そう思った瞬間だった。


「あら、門を開ける音がしたわね」


そう言うと彼女は立ち上がり、早足で居間を出ていく。


牧も遅れながらも、急いでその後を付いて行った。


そして玄関先に着くと。


「・・・そ、壮介君!・・・そっちは・・・まさか・・・」


ずぶ濡れになった藤木壮介の背後に、もう一人の人影があった。


同じようにずぶ濡れになったその人に向かって、彼女が声をかけた。


「大変大変。とりあえず、はい、2人とも、これで体をふきなさい」


いつの間にか用意されていた手拭いを何枚か渡した彼女は、


藤木の隣にいたその人に大きな布を被せた。


「幸花さん、うちのお風呂で良いかしら。狭いですけど、


風邪ひいちゃうし。一応用意はできていますから」


「ありがとうございます」


気づいた瞬間、牧は生まれて初めて眩暈を感じていた。