四方を壁に囲まれた部屋の中央で、その男は報告に訪れた若い男に向って冷徹そうな眼差しを向けていた。

「各オペレーションの進行状況は?」

「はい。オペレーション1の段階から、オペレーション2へと予定通り進んで居ります。オペレーション3発動の準備も出来ました」

「例の排除の件で問題が生じたと聞いているが?」

「残念ながら、犠牲者が一名。ですが身許は判らないようバックアップセクションがクリーニング致しました」

「Kデーまでは、何としても我々の存在を知られてはならん。その事は、今更くどく言う必要も無いとは思うが、今一度全員にその辺りの意思統一を図ってくれ」

「はっ!」

「特にオペレーション3になると、我々以外の人間が多数絡んで来る。情報漏えいには充分注意して事に当たってくれ。いいな」

「はっ!」

「下がってよし」

「園田二尉、下がります!」

 園田二尉が部屋を出て行くと、男は机の上の電話に手を伸ばした。

「鹿島三佐、オペレーション3を……」

 そう一言だけ言って受話器を降ろした。

 短く刈り込まれた頭髪に手をやりながら、そういえば、このところまともに太陽を見ていないなと、独り言を言った。

 そして、Kデーまでは……

 いや、最早私の命は自分のものではない。

 みんな、判ってくれ……

 この国へ御魂を……

 ふと脳裏に浮かんだ家族の姿を、男はこの言葉で掻き消した。