そのうちの一人が、道路を隔てた向かいのコンビ二へ入った。

 二分とせずに出て来た男の手には缶ビールと煙草があった。

 駐車場の片隅で買ったばかりの煙草を咥え、缶ビールのプルトップを開けた。

 男の耳には極小のイヤホンが装着されており、ボタンダウンの襟を自分の口許に近付けた。

 襟に着いていたのは、ボタンではなくピンマイクであった。

 男は殆ど口を動かさずに、

「ターゲットは独り……侵入口は建物の左右二ヶ所……部屋は一階中央……裏手は駐車場……尚、当該アパートの二階三部屋とも灯り無し……」

 と話していた。

 この男から二十メートル程離れた位置に停めてあったワンボックスカーから、二人の男が音も立てずにひらりと降りた。

 連日、記録ずくめの熱帯夜だというのに、この二人は揃って長袖に身を包み、顔を隠すかのように襟を立てていた。

 二人は洪が入ったアパートに直接近付かず、周辺の家やアパート、マンションの様子を注意深く観察し始めた。

「左側三軒まで、住人はクリア……右側はマンションの壁面、こちらは問題無し……通行人が暫く続く……」

 二人の片割れが、やはり襟元に装着したピンマイクに呟いた。