ペルシャ湾とオマーンの間に位置する狭い海峡は、世界で最も原油タンカーが行き来する海である。

 一番狭い幅の所で33キロ。

 そこを十万トンクラスはおろか、その何倍もの原油タンカーが巨体を進ませている。

 今も、薄汚れた百トン足らずの漁船の数千メートル横を二十数万トンの巨大タンカーが航行していた。

 巨大タンカーが寄せる波で、その漁船は木の葉のように浮かぶのがやっとという状態で漂っていた。

 少なくとも、タンカーの航海士にはそう見えた。

 しかし、この薄汚れたちっぽけな漁船は、見掛けとは裏腹に、恐ろしい牙を持っていたのである。

 一見、漁をしながら漂っているかのように思えた漁船には、日本製の高出力船外エンジンが取り付けてあった。

 漁船の船上で数人の男が、その船外エンジンを操作し始めた。

 すると、波間を切って進むようにして、突如としてタンカーに急迫して来たのである。

 タンカーの航海士は異変に気付いた。

 が、その巨体故に機敏さを船に求める事は出来ない。

 急速に肉薄して来た漁船……いや、その速力から見て、もう漁船ではない事は明白であった。

 漁船を装ったゲリラ船の船上に新たな人影が動いた。

 褐色の肌を持つアラブ人達とは違う、黄褐色の肌を日焼けさせた男。

 その男が何か筒のような物を構え、巨大タンカーに狙いを定めた。