「……そのサイトにアクセス出来たパスワードは、19701125」

「19701125?」

「そのオークションサイトで出品されていた作家の全集がヒントです」

「確か、喜多島由男だって言ったわよね……」

「喜多島由男事件」

「陸上自衛隊市谷駐屯地での割腹自殺の事?」

「はい。その日付……」

「あっ!」

 今から四十年前の1970年11月25日。

 文壇の異端児とも天才とも言われた喜多島由男は、事件を遡る事五年前に設立した『剣の会』という民兵組織の幹部四人を率いて、東京の市谷にあった陸上自衛隊東部方面軍駐屯地へ乱入した。

 目的は、当時世間から鬼子扱いにされていた自衛隊を真の国軍として奮い立たせるべく、クーデターを促そうとしての行動であった。

 市谷の駐屯地に日本刀で武装した喜多島等は、当時の幕僚幹部を脅し、駐屯地内の全自衛官を広場に集結させるよう強要した。

 幕僚幹部は、半ば狂人となっていた喜多島を宥めるべく、その要求を受け入れた。

 集められた自衛官達の前で、喜多島は一時間以上に渡って持論を説いた。しかし、その演説は自衛官達の罵声と怒号で掻き消された。