鹿島二佐の表情は、いよいよ決行の日が来たという喜びで満ち溢れていた。全ての手筈は整った。

 Kデイ決行時刻は午前7時。八時間後には自ら指揮を執る部隊が、国会と首相官邸を占拠しているのだ。

 治安出動で都内各所の警備に当たっている隊員の、配置交代時間に合わせての計画であった。

 交代の為に集合する部隊の中に、つるぎ会で構成した部隊を紛れさせ、彼等の扇動で他の隊も合流させる。政府への弱腰外交に、隊員の中にはかなりの不満が充満していた。

 周辺諸国の問題もタイミングが良かった。今年の春辺りから、はっきりと北朝鮮の動向が怪しくなり、そこへ尖閣列島に於ける中国漁船の問題。それに続く北方領土へ対するロシアの態度。

 同盟国であるアメリカとも、沖縄の普天間問題で、政府は迷走していた。

 膨らみに膨らんだ風船を破裂させるのはわけない。

 鹿島のケータイが鳴った。

(岡田です。要もここに居ります。恐らくこれが最後の挨拶になるかと……)

「うむ。二人にはこれまで困難な任務を遂行して貰って感謝している。いよいよ明日だ。いや、既に日付は変わったから、今日になるか。最早時の流れは義挙を容認している」

(はい)

「だが、栄誉ある義挙に、君達二人の名は永遠に記す事が出来ない」

(誰かがやらなければならない任務ですから)

「誰よりも君達を誇りに思う」

(その言葉を頂けただけで充分であります。では……)

 ツーという電話が切れた音が耳の中で余韻を残していた。

 この時、駐屯地の営門前では、門衛が強制捜査を敢行する捜査官との間で険悪な状況になっていた。