「あの子は、神隠しに遭った子やからなぁ……。まだ三つになるかならないかの頃だったやろか、当時、ここから車ですぐの、一国沿いに当時は住んでおったんです。裏山で登と遊んでおったんやけど、夕飯時になってもなかなか帰って来なかったもんやから、皆で探しに行ったんですわぁ」
「母親も一緒だったのですか?」
「ええ。私らが心配して見に行った時は、母親の静子が、登だけを抱きしめたまま、うわんうわん泣いて居りましてな。見ると、典孝がおらん。静子に尋ねても、ただ泣くばかり。結局、典孝は見つからなかったんです」
「しかし、戸籍謄本を調べた上でお伺いしたのですが、戸籍上は死んでいませんし、失踪届けも出されていませんでしたが?」
「そう言われましてもねえ……ああ、そういえば、静子は典孝がいつかは帰って来るっちゅう言って、毎日仏前に陰膳しよっとった。うちらが見ていても、初めは子を思う親の気持ちは強いもんだなぁ位にしか思っとらんかったのですが、それが段々エスカレートして行ったというか、何かにつけそこに典孝が居るような口ぶりになって……気が触れたか?みたいにうちらも思うようになりましてのぉ。まあ、そんな塩梅でしたから、本人が死亡届けとかせんかったのと違いますか?」
家人の話は、作り話とは思えなかった。だが、それを事実だとするのならば、その後の遍歴はどういう事なんだ?という疑問ばかりが河津の中でどす黒く渦巻いた。
徒労という言葉の意味をこの時程思い知らされた事は無かった。
そんな思いで、すっかり暗くなった道を歩いた。
蒔田典孝は幼少時に行方不明になり、そのまま消息を絶った。なのに戸籍上は残り、何度かの変転の後、下山典孝という名を持った人物になった。
清水駅のホームで新幹線の到着を待つ間、河津の脳は堂々巡りをしていた。
替え玉を立てたのだろう。それは想像がつく。何度も養子縁組を繰り返したのは、恐らく替え玉である事が発覚しないようにとの事であろう。そういう者が、超一流企業である丸光グループの関連企業に関わっている。
底無し沼に嵌まり込んだ……。
河津は夢遊病者のように、ふらふらと立ち上がり、到着した東京行きのひかりに乗り込んだ。
「母親も一緒だったのですか?」
「ええ。私らが心配して見に行った時は、母親の静子が、登だけを抱きしめたまま、うわんうわん泣いて居りましてな。見ると、典孝がおらん。静子に尋ねても、ただ泣くばかり。結局、典孝は見つからなかったんです」
「しかし、戸籍謄本を調べた上でお伺いしたのですが、戸籍上は死んでいませんし、失踪届けも出されていませんでしたが?」
「そう言われましてもねえ……ああ、そういえば、静子は典孝がいつかは帰って来るっちゅう言って、毎日仏前に陰膳しよっとった。うちらが見ていても、初めは子を思う親の気持ちは強いもんだなぁ位にしか思っとらんかったのですが、それが段々エスカレートして行ったというか、何かにつけそこに典孝が居るような口ぶりになって……気が触れたか?みたいにうちらも思うようになりましてのぉ。まあ、そんな塩梅でしたから、本人が死亡届けとかせんかったのと違いますか?」
家人の話は、作り話とは思えなかった。だが、それを事実だとするのならば、その後の遍歴はどういう事なんだ?という疑問ばかりが河津の中でどす黒く渦巻いた。
徒労という言葉の意味をこの時程思い知らされた事は無かった。
そんな思いで、すっかり暗くなった道を歩いた。
蒔田典孝は幼少時に行方不明になり、そのまま消息を絶った。なのに戸籍上は残り、何度かの変転の後、下山典孝という名を持った人物になった。
清水駅のホームで新幹線の到着を待つ間、河津の脳は堂々巡りをしていた。
替え玉を立てたのだろう。それは想像がつく。何度も養子縁組を繰り返したのは、恐らく替え玉である事が発覚しないようにとの事であろう。そういう者が、超一流企業である丸光グループの関連企業に関わっている。
底無し沼に嵌まり込んだ……。
河津は夢遊病者のように、ふらふらと立ち上がり、到着した東京行きのひかりに乗り込んだ。



