1970年の亡霊

「……警察は、亡霊を捕まえようとしている。私達は、ただ亡霊に操られていたにすぎない」

「どういう事なんですか?」

「言葉のままです……」

「貴方達は一体誰に操られていたんです?」

「……」

「垣崎さん、貴方は私に言いました。何も知らずに反逆の徒にされる者達を救ってくれと。その言葉に嘘はありませんよね?私は、その言葉が真実だと思いました。これ以上は犠牲者を出したくない、そういう思いが読み取れました。ですが、結局貴方は真相を何一つ語ってはいない。酔ったように、そう、自分の言葉に酔い、これで武人らしく死を迎え入れられると……飾っているだけじゃないですか。それって、自分勝手な言い訳じゃないですか。子供が思い通りに行かなくなると、手足をばたつかせて泣き喚きますが、それとまるっきり同じです。喜多島由夫にしてもそうです。あれだけ素晴らしい小説を、沢山の人を感動させた作品を生み出しながら、最後は自分の死に方を着飾る為に、無垢な青年達を巻き込んで……はっきり言って、そういうの反吐が出ます。武士道?笑わせないで下さい。自らの責任を死ぬ事で償う……それで責任が果たせたなんて思われたら……思われたらそれこそ犠牲になった者達の家族とか、友人とか、愛する人とか、残された人達は何処にどう怒りをぶつければいいんです?逃げる為の口実に、死というものを簡単に使わないで下さい!」

 ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、三山は立ち上がり、腰のホルスターに手を伸ばして銃を抜いた。

 垣崎は表情を変えず、三山をただ見つめている。

「さあ、これで死になさい!真実を墓場に持って行きたいのなら、これできれいさっぱりこ世から消え去ればいい。但し、先に私を撃ってからにして貰えますか」

 銃口を自分の方へ向け、三山は銃を垣崎の顔へ突き付けた。

「銃を……戻された方がいい。他の捜査員に見られたら、事です……」

 それはまるで駄々っ子を諭すような、慈愛に満ちた穏やかな口調だった。