加藤の足元に何発もの銃弾が跳ねた。閉ざされた門と、そびえる塀に阻まれて敷地内にすら入れない。

 十メートルばかり離れた場所では、アルミ製の収縮梯子をよじ登ろうとするSATの隊員がチャンスを窺っている。

 柏原の姿を探すと、梯子の向こうから加藤を見ていた。互いに親指を立てて、無事を伝え合う。

 勇敢なSATの一人が塀を乗り越え、敷地内に飛び降りた。二人目が塀の上に出ようとした瞬間、銃弾が命中したのか梯子から転げ落ちた。下に居た仲間の隊員達が地面に落ちる前に支えた。

 防弾ベストとヘルメットをしているとはいえ、ライフルで狙撃されたら無傷では済まない。

 路地のそこかしこで弾が跳ね、アスファルトの欠片が音を立てて民家の壁や車両に当たる。

 最初に中へ飛び込んだSATの隊員が、あともう少しで校舎の扉に取り付こうかという時、無情にも彼の身体に数発の銃弾が命中した。

 目の当たりにした捜査員達は、悔しさで歯噛みをした。見ると、撃たれたSAT隊員はまだ息がある。必死になって建物の陰へ身体を移動させようとしていた。

 それを見た捜査員達が、校舎から撃ち込まれる銃弾をものともせず、一斉に射撃を始めた。

「今だ!」

 SAT達が一気に梯子を駆け上がり、塀を越えて敷地内へ雪崩れ込んだ。民家の庭先で身を隠していた東綾瀬署の捜査員が、電動カッターを片手に正門へ走った。誰もが自らの命を顧みる事無く、驚くべきほどの勇気を発揮していた。

 降り注ぐ銃弾の中、電動カッターを振るう捜査員。

 それを援護射撃するSATの狙撃手。

 カッターを手にした捜査員が倒れた。目と鼻の先でその光景を見ていた加藤は、無意識のうちに駆け寄り、倒れた捜査員が落とした電動カッターを拾っていた。