住民の避難誘導はやはり難航した。突入予定時刻が過ぎて行く。時間が経てばその分相手にこちらの動きを察知される可能性が高くなる。

 柏原は焦れていた。SATも突入位置に着いた。

 僅かに遅れて配置された機動隊が、半径二キロ圏内を隈なく埋め尽くしたので、正しく蟻一匹たりともこの包囲網からは逃れられない。

 これまでのところ、学校から人が出て来た気配は無いから、まだ敵は中に潜んでいる筈だ。

 路地という路地には警察官だけしか居なかった。

 東綾瀬警察で渡されたニューナンブ60を挿した腰のホルスターに手を掛けながら、柏原は民家の塀からじっと目を凝らしていた。

 加藤刑事は路地を挟んだ向かい側のアパートで身を潜めている。イヤフォンから三山の声が聞こえた。

(柏原さん、SATは熱感知センサーを持って来ているかしら)

「その辺は抜かり無いだろう」

(相手はどんな武器を持っているか判らないから、性急な突入だけは避けて欲しい……)

「心配性だなぁ。大丈夫、じき本庁からヘリも飛んで来る。僕の事よりも、加藤君の手綱を締めて上げた方がいいんじゃないか。彼の猪武者ぶりは本庁でも有名だったからな」

(私で止まる人でもないですが……でも、)

「三山君、今校舎の窓に人影が見えた……」

(ケータイのレンズ、向けてみて下さい……確かに影が動いています。光度が足りないからはっきり見えないけれど、動きからするとどうも気付いている感じがします)

「こりゃあ手を焼くぞ……」

 柏原は最悪な事態にならなければいいがと思った。