千葉県君津市の海岸で発見された首無し死体は、司法解剖の結果、推定年齢四十代から六十代の男性と判明。

 直接的な死因は出血死と見られるが、肋骨が二本折られて居り、内臓の一部にも損傷が確認された事から、明らかに過度な暴行を受けていた事が判った。

 又、胃には消化物が全く無く、死亡する二十四時間以内は食事をしていない事も判明した。

 これを受けて千葉県警は、所轄である君津署に捜査本部を設け、殺人事件として事件解明に乗り出す事になった。




 何時ものように館山署へ出勤した加藤忠幸巡査部長は、朝の引継ぎ時に大窪課長のデスクへ呼ばれた。

「加藤君、すまないが、今日から君津署へ応援に行って貰えないか」

「昨日、チョーバの看板出した首無し死体の件ですか?」

「ああ。県警からの要請でうちからも人を回してくれと言って来たんだ。もうすぐ選挙でそっちの方も忙しくなるというのに、うちのような小所帯の所じゃ、君一人欠けるだけでもアップアップなんだがな」

 来月に控えている参院選に備えて、捜査二課を中心として選挙違反の取り締まりが忙しくなる。

 これは、全国何処の警察署も一緒だ。地方の小さな警察署になると、二課だけでは人員が足りず、他の課の捜査員を動員しなければ間に合わない。

「君が受け持っている事件の方は、広田君に引き継いで貰うから、今日はそのまま君津署へ向かってくれ。急な話ですまないが、宜しく頼むよ」

「判りました」

「まあ、君にしてみれば、こんな千葉の田舎町でこそ泥相手に走り回るよりは、大きなチョーバで働いた方がお似合いだしな」

「いえ、刑事の仕事には変わりありませんから」

「会計課へ行って、仮払金を受け取ってくれ。一応、出張の形で手当ても出して置くから」

「助かります。では」

 加藤は大窪課長に一礼をし、自分の机に戻った。