10.1テロ以降、常に即応態勢を取っていた習志野の空挺師団は、レンジャー部隊及び、対テロ特殊部隊を統括指揮しているだけあって、歩兵戦闘に於いては陸自最強部隊と言われていた。

 11月14日午前零時四十五分、首相命令で出動が掛かった。横浜APEC会場付近で銃撃戦があった事は、既に師団内の全員が知っていたから、当然そちらへ向かうものと思っていた。だが、受けた命令は違っていた。

 一個中隊をH-1ヘリにて搬送すべし。

 作戦目標は東京都足立区内の伊興北第二小学校となっていて、同校グランドへ降下強襲せよとの事であった。

 命令を受けた師団長黒木義文は、三個小隊編成の中隊を派遣させるべく、編成準備を急がせた。

 十機のヘリに分乗した108名の空挺隊員の中には、先の歌舞伎町鎮圧に参加した者も居た。彼等は実戦で敵中降下を経験している為、他の隊員達より落ち着いていた。

 中隊を指揮する飯田二尉は、これまでの暴動鎮圧には出ていなかった為、今回が初めての実戦となる。

 ヘリからの降下作戦は、訓練で何度も行っているが、弾丸の飛び交う実戦の場で、果して訓練通りに指揮を取れるであろうか、と不安の色を隠せないでいた。

 尤も、いざ実戦になれば最強部隊指揮官としての力を存分に発揮するであろう。

 それだけの訓練を受けて来たのである。

 厳しい訓練を積んだのだという自信のみが、戦場での恐怖を取り除いてくれるのだ。

 午前一時三十二分、基地を飛び立ったヘリは、闇に包まれた空へ機体を溶け込ませた。