『156便、そのまま高度を保ってA進路で着陸態勢を取れ』

『こちら156便。高度を保ち着陸態勢を取ります』

 156便の機長、長野拓実は副操縦士の柳田常雄へ計器が示す数値を再確認させた。

『156便、A進路からの着陸を許可します。今の高度から500メートルまで、5分間で降下』

『了解』

 関西空港への夜間着陸はもう何度も行っている。海側からの風も、今夜は殆ど吹いてなく、問題になるような事は何も無かった。

 ゆっくりと操縦桿を押し込むようにし、徐々に高度を下げ始めた。

 前方に見える滑走路の誘導灯がきれいに列をなし、漆黒の闇の中で宝石のような輝きを放っていた。

 異変は、156便が着陸進入高度まで下がった時に起きた。

 最初に気付いたのは、副操縦士の柳田だった。

「機長、滑走路が!」

 オレンジや赤の色が混ざった閃光が、滑走路の中央部に突然現れた。

 閃光に遅れて地鳴りのような音が、振動となって156便の機体を揺らした。

 反射的に機長の長野は操縦桿を引き、機首を上げた。

「スロット上げろ!」

「は、はいっ!」

 大きな機体は、まるでいやいやをするかのようにゆっくりと機首を上げた。

『156便、着陸中止、着陸中止!中止だ!左に旋回し高度を上げろ!』

 一歩遅れて管制塔から緊急回避の指令が入った。パニックで上ずった声は、操縦室の中で何度も中止を連呼した。

 機長が回避運動を終えようとした瞬間、新たな閃光と爆発音が凄まじい衝撃波とともに、156便の後方から追い掛けて来た。