1970年の亡霊

「自己紹介で、私は公安外事課としかお伝えしていませんでしたが、実は対北朝鮮班に属しています」

 柏原は、加藤が信頼に値する刑事だと思ったのであろう。彼は李哲男の全身写真と、首無し死体の検死写真を見せながら、全てを語り始めた。当然、対テロ対策課の河津との話も。

 その話を聞いていた加藤は、表情こそ変えていなかったが、内心ではその内容に驚いていた。

「習志野でテロ実行犯のアジトが、自衛隊の手で制圧されました。その現場にイ・チョンナムの死体の一部が出て来ましたが、私はそれが作為的なものと思っています。今夜、加藤さんのお話を伺って、それを確信しました」

「ちょっと待ってくれ。いきなりの話だから、正直頭がこんがらかって……。すみません、どうも改まった口調というのは苦手で」

「構いません。階級は私の方が上ですが、現場の場数は加藤さんの方が遥かに上だ。今後は畏まらずやりましょう」

「そっちの手伝いをするのが決まりみたいな雰囲気ですな。まあ、そこまで腹を割って話されたのでは、NOとは言えない。実は、こっちも三山警視の件で、自衛隊の中にキナ臭いもんを感じているんです」

 加藤は三山が言っていた、自衛隊クーデター説を話し始めた。話して行くに従い、柏原の話と咬み合ってき始めた事に気付き、その事を柏原に言うと、

「私も今、同じように符合するものを感じました」

「それで、話を戻しますが、君津沖で巡視船が遭遇した不審なボートは、首無し死体を棄てたとしますよね、で、首は何処かに保管して、それをテロ実行犯の証拠となるようにした……そう柏原さんは考えているんですね?」

 加藤の言葉に柏原は肯いた。