1970年の亡霊

「内務班……先方は名前を名乗りましたか?」

「確か、その、かわ?いや違うな…その、その、やま…じゃない……」

 ここで、柏原はふと習志野で応対した自衛官の名前を思い出した。

「そのだ、ではありませんでしたか?」

「そのだ……だったかなあ。いや、面目ありません。刑事のいろはなのに、相手の名前を失念するとは」

「東部方面司令部の内務班と言ったのは、間違いありませんね?」

 柏原の口調が、強くなった。

「はい。それは間違いありません」

「ここで私の方からも伺っていいですか?」

「どうぞ」

「柏原さんは、君津のホトケに心当たりがあるんですか?」

 加藤の質問に、柏原は直ぐには答えず、

「加藤さん、休職はいつまでですか?」

 と、逆に質問して来た。

「とくに、いつまでとは決まっていませんが……」

「よかったら、ちょっと手伝って頂けませんか……」

「公安のですか?さっきの質問の答えにもよりますが」

「イ・チョンナム、北朝鮮の工作員です」

 加藤は、何処かで聞いた名前だなと思った。