1970年の亡霊

 三山にああは言ってみたものの、加藤は正直どう手をつけてよいものか、考えあぐねていた。

 機捜当時の後輩達に協力を頼もうにも、今はそれどころではない。

 そんな矢先、公安の柏原と名乗る捜査官から電話が入った。

 詳しい事は、会ってから話したいと言っていた。

 内容は、未だ手掛かりの無い、首無し死体事件についてだと言う。

 話の内容が内容だけに、加藤は自分の部屋で話すならば会っても構わないと答えると、柏原は今から行きますと言って来た。電話で話しながら、加藤は思わず時計を見た。

 夕方の五時を回っている。これから来るとなれば、君津から加藤の住む館山まで、車ならば四、五十分は掛かる。電車ならば、もう少し早いかも知れないが、それにしてもこんな時間でも構わないと言って来た事に、驚きの気持ちを隠せなかった。

 柏原が加藤の住むアパートへやって来たのは、夜の六時を回っていた。

「この年になってチョンガーなものですから、何もお構い出来なくて」

 慣れない手付きで、加藤は珈琲を淹れた。

「こちらこそ突然、夜分にすみません」

「いえ。今は休職中ですから、時間は腐る程あります」

「早速なんですが、加藤さんが書かれた意見具申書の内容について、お話をお伺いしたいのです」

 柏原が詳しく聞きたいと言って来た内容は、死体発見前夜に、君津沖で不審船があったという件であった。