1970年の亡霊

 約一時間ばかり捜査資料に目を通していた柏原は、最後に面白いものを見つけた。

 それは、意見具申書のファイルであった。

 さっと読み流すつもりで目を通していたが、書かれている文章に興味深い文字を見つけ、小躍りしたい気持ちになった。

「この意見具申書を書いた捜査員と話がしたいのですが」

 田之上は、捜査資料の中に意見具申書が入っているとは思っていなかったから、そう言われて初めてその存在を知った。

「捜査員の名前は誰になっていますか?」

 柏原はこの一言で、田之上の捜査指揮官としての能力を疑った。

「加藤忠幸巡査部長となっていますが」

「ああ、彼は館山署からの応援で来て貰っている捜査員なんですが、現場には一切関わっていません。事務担当なんですよ。ですから、書かれてある事も実際にその目で確かめたものではないでしょう。余り参考にはなりませんよ。それに、彼は今休職中ですよ」

「休職中?」

「ええ。この前、都内で起きた本庁の女性警視襲撃事件、その時にその捜査員が現場に居合わせていまして、犯人と格闘した際に刺されて負傷したものですから、現在療養中となっています」

「そうですか」

 柏原は田之上に加藤の連絡先を聞き、君津署を後にした。

 予定では資料のコピーを取ったら本庁へ戻るつもりであったが、どうしても加藤と話がしてみたくなり、教わった電話番号に掛けてみた。