1970年の亡霊

 柏原の目的は、首無し死体が北朝鮮工作員李哲男かどうかの確認であった。

 習志野郊外のアジトで爆死したとされる李だが、柏原が確認したのは首だけである。それも目視だけで、法医学医師による検死はされていない。

 二十四時間体制で監視していた李の消息が掴めなくなったのは、四ヶ月前の六月初旬だ。

 君津海岸で発見された首無し死体の殺害は、六月二十六日から二十七日前後。柏原が本庁のデータリンクで見た資料には、李の身体特徴と酷似した部分が見られた。

 習志野の自衛隊駐屯地で李と思われる首を見るまでは、この首無し死体が李に間違い無いと確信していた。

 李の身体特徴に、身体に付けられた無数の傷がある。

 実は、かねてから李をマークしていた時に、大久保の韓国垢すりサウナで、部下の捜査員が彼の裸の写真を撮っていたのだ。

 今、柏原の胸ポケットには、その写真のコピーが忍ばせてあった。

 渋々捜査資料を差し出した田之上は、

「この写真をパソコンからプリントアウトして貰えませんか」

 と言われ、余計渋い顔になった。

「ガイシャの指紋のコピーも頂けると助かります」

 公安のデカは厚かましいのが多いと聞いていたが、その話は本当だなと田之上は思いながら、とっとと終わらせてくれという態度をあからさまに見せた。