1970年の亡霊

 君津署捜査一課に県警本部から派遣されていた田之上課長は、本庁公安部から人が来ていると言われ、一体何の事だろうと思った。

 最初、公安部と聞いて、総務部監査課が来たのではないか?とも考えた。

 まさか、加藤あたりが不祥事でも起こしたか?

 公安総務部監査課は、現職警官の不正を監視、取り締まる部署だ。

 館山署から応援に来ている加藤を、田之上は端から嫌っていた。そういう色眼鏡的な見方しか出来ないから、公安という名前を聞くと、直ぐさま加藤の名前が浮かんだのであろう。

 応接間でその人間と顔を合わすと、田之上の想像と違って、やって来たのは公安外事課の捜査官だった。

「突然でお手数を掛けますが、そちらで扱っている首無し死体の件、詳しくお教え願えませんでしょうか」

 公安部外事課北朝鮮セクションの柏原警視と名乗った捜査官は、言葉こそ慇懃だったが、物腰には有無も言わさぬ凄みがあった。

「どういった事でお調べになりたいのでしょうか?」

「ガイシャの検死記録と、発見時の状況等を」

「それは正式な要請と受け取って宜しいのですね?」

「いえいえ、そう畏まったものではありません。ただ、一連の爆破テロに関する捜査の一環ですから、正式な要請ではなくとも、全面協力は当然して頂けるものと思って居りますが……」

 階級は同じ警視ではあるが、格の違いは明らかだった。