1970年の亡霊

 病室の扉は開いていた。ノックをしようとしたが、先に三山の方が気付いた。

「河津さん」

「やあ」

「ごめんなさい、今片付けるから」

 ベッドの上だけでなく、そこら中に本が山積みになっていた。

 病室に入った河津が、一冊の小説を手にした。

「炎上……喜多島由夫か。高校の頃に嵌って読んだ事があった」

「私はそっちよりこれの方が面白かったけど」

 三山は枕元にあった本を指差した。

「だいぶ具合が良さそうだね」

「お陰様で、来週辺りには退院出来そう」

「良かった」

「ありがとう」

「ところで、この前の話だが……」

「あら、ひょっとして手代木局長に話をしてくれたの?」

「待てよ。そう早まらないでくれ。俺個人がちょっと聞きたかったんだ」

「そう…で、どんな事?」

「君が最初に襲われた時の事をさ」

 三山は、初め銃撃された時の事を言っているのだと思った。だが、問い返してみると、加藤と有楽町で会った帰りに襲われた件だと判った。