1970年の亡霊


 病室に訪れた河津を見た三山は、その姿に驚いた。

「その顔どうしたの?血が出ているじゃない」

「今の東京で夜の一人歩きをしたら、こういう目に遭うサンプルさ……」

 河津は不機嫌そうに答えた。

「突然呼び出したりしたから、機嫌悪くした?」

「いや……」

 不機嫌そうにしている理由が、まさか横に居る加藤のせいだとは、三山は気付いていない。

 河津にしてみれば、久し振りに三山と仕事を離れて話が出来ると思っていたのに、傍らに見ず知らずの男が座っているのだから、心中は穏やかでは無い。

「俺は居ない方がいいか?」

 加藤は河津の視線に、好意の欠片も無い事を直ぐに察した。

「どうして?加藤さんだって関係ある話なんだから一緒に居て下さい」

「用は何だ?」

「そんなに苛立たないで」

「別に苛立ってなんかいないさ」

 三山は、やっぱり河津を呼ぶんじゃなかったと後悔し始めた。

 三山と河津は、大学時代から付き合いがあった。尤も、同じゼミだったというだけで、特に深い関係だったという訳では無い。ただ、河津の方は、昔から三山に好意を抱いていたようで、三山もその事を薄々察してはいた。

「君から呼んだんだ。早いとこ用を済ませてくれ」

 二人のやり取りを傍らで聞いていた加藤は、河津という男をこの先、好きになれないなと思った。