1970年の亡霊

 地下鉄は閑散としていた。まるでニューヨークのサブウエイのように、車両の中はスプレー塗料で落書きだらけだった。

 別の車両から、三人の男達が移動してきた。見るからに悪党面をしている。

 男達が河津を見て、値踏みした。

 このところ、地下鉄に限らず、夜の電車内は無法地帯になっている。

 最初、河津は車で三山が入院している病院へ行こうかと考えた。しかし、一般車両の交通規制が強化されたのと、至る所で検問がある為、百メートル毎に身分証明書を提示しなければならない。

 例え公安の刑事だと言っても、いちいち照会されたら、三十分で着くものも三時間は掛かってしまう。

 だが、少しばかり後悔した。

「おじさん、いい時計してんじゃん」

 男の一人が顔を近付けて来た。

 息が臭い。

 腸が腐ったような臭いだ。

 黙って無視を決め込む。

「しかとしてられんのも今のうちだぜ」

 その言葉が終わらないうちに、別な男がいきなり蹴りを放った。

 座席に座ったまま、その蹴りをなんとかかわす事は出来たが、残りの二人が放った拳や蹴りまではかわし切れなかった。