1970年の亡霊

 秋雨前線の影響で、東京はこのところ愚図ついた天気が続いた。

 加藤と三山は、まだ退院出来ずにいる。

 二人とも怪我の具合は順調に快復していた。加藤が一般病棟に移ると、病院内の喫茶室で頻繁に会うようになった。

 三山はこの頃になって、初めて加藤が別居していた事を知った。

「年中家を空けていれば、いい加減愛想を尽かされもするさ」

 自嘲気味にそう語る加藤。

「私達の仕事って、普通に恋愛とか結婚というのは、やっぱり無理なのかな」

「おいおい。あんたと俺を一緒に考える事はねえよ。俺はこの通りガサツで家庭なんか顧みないタイプの男だから……。あんたは頭もいいし、器量だって……」

「珍しく加藤さんに褒められた。でもね、私だってうかうかしていたら四十になるのよ。なのに、決まった相手もいないし……」

「デカ…辞めるか?」

「え?」

「今までのキャリアを捨てるというのも、あんたにとっちゃそう簡単にふん切れるもんじゃねえだろうが、このまま続けてりゃあ、又、今回みたいに命を落としかねねえぜ」

「そうねえ……」

 三山の意外な反応に加藤は少し驚いた。

 彼の知っている三山ならば、間違いなくこんな反応はしない筈だ。