1970年の亡霊

 相馬春樹……。この名前も偽名なのであろう。

 加藤は、男が見せた不敵な笑みを何度も思い浮かべた。あの場面で、ああいう笑みを浮かべられる人間を見た事が無い。

 単に殺人で快楽を感じるといったタイプとも違う。殺人を、というよりは、闘う事に喜んでいた。

 映画やドラマの世界でならば、ああいった殺人マシーン的な人間は存在するだろう。

 だが、現実世界の中では、そういう人間が生きられる場所は限られる。

 日常の中ではなく、非日常の緊張感の中で生きている人間……

 そんな印象を加藤は、男と対峙していた時に感じたのだ。

 本庁時代、ナイジェリア系ギャングの男を捕まえた事があった。

 彼は、本国で八年間兵役に就いていた。その間、内戦で反政府ゲリラを何百人と殺したという。

 大袈裟に聞こえない程の薄気味悪さが、彼にはあった。

 日常的に人を殺し、また、いつ自分が殺されるかも知れない中で生き抜いて来た……真っ当な神経はとっくに失われたのだろう。

 その時に感じたものを、あの男からも嗅ぎ取ったのである。

 自衛隊……

 この三文字が、何度も点滅した。