1970年の亡霊

「死ぬよ……」

「生憎だな。これでも頑丈な方なんだ」

「大人しくしていれば、楽にしてやるよ」

 駆け付けた警官達の怒号と、走る寄る足音が聞こえて来た。

 男がナイフの切っ先を向けて半歩、にじり寄った。

 その分、加藤は後ろへ下がった。

「そこをどくんだ……」

「骨、二、三本いっちまってんだろ?逃げらんねえよ」

「何でも無いさ……」

「自衛隊ってえところは、三階から飛び降りる訓練もするのか?」

 男はもう一度笑みを浮かべ、次の瞬間跳んだ。

 加藤はその動きを予測していた。

 男は加藤の左側を狙って体当たりをして来た。

 加藤は左腕でナイフを受け止め、くるりと体を反転させた。

 右腕を首へ巻き、そのまま身体を引き倒した。

 柔道の裸締めの要領で締め上げようとするが、思うように力が入らない。

 男が何度も身体を捩る。

 加藤の腕から、男の首が抜けた。

 立ち上がった男の手には、血を滴らせたナイフが光っていた。