1970年の亡霊

 非常階段を駆け下りた。

 傷口から血が滴り落ちる。

 血の気が失せて行くのが、自分でも判った。

 警備員が加藤の横を走り抜け、外へ通ずる扉を開けた。

 外へ出ると、片足を引き摺りながら、駐車場との垣根を乗り越えようとする男の背中が見えた。

 警備員が腰の警棒を抜き、男に向かって走り寄った。

 振り上げた警棒を男に叩き付けようとした刹那、男の身体が宙を跳び、警備員へ回し蹴りを放った。

 蹴りは警備員の顎を見事に捉えた。

 もんどり打って倒れる警備員の顔を、今度はサッカーボールキックで蹴り上げた。

 バシッという鈍い音とともに、血反吐が飛んだ。

 加藤が男ににじり寄る。

 サイレンが止まった。

 パトカーが到着したのであろう。

「もう観念しな」

 加藤が声を掛けると、男は不適な笑みを浮かべながら、

「無理だ……」

 と呟いた。

「そうだ、もう逃げられねえよ」

「違う……あんたの事だ」

 男のナイフが、月明かりに照らされた。