ガツンという鈍い音が響き、二人の足元に丸椅子が転がった。

「ウッ!?」

 襲撃者と加藤が同時に呻く。

 男のこめかみに、血が一筋滲んでいた。

 男の振り下ろしたナイフは、加藤の左鎖骨付近を傷付けたが、体勢を崩したのか正確に刺し貫くまでには至らなかった。

「こ、このヤローッ!」

 加藤が跪いた状態から、男の腰に抱き着いた。

 悲鳴と物音は廊下にも届いた。

 加藤の後を追うようにして駆け付けた幸恵と看護師の悲鳴が、更に騒ぎを大きくした。

 他の部屋のドアがばたばたと開き、付き添いや動ける患者が何事かと廊下へ出て来た。

 病室では、加藤と襲撃者が組み合っている。

 床に落ちた毛布を拾った三山は、それを両手に持って広げ、男の背中に向かって覆い被さった。

 男は柔道の跳ね腰のようにして、三山を弾き飛ばした。

 廊下まで投げ飛ばされた三山へ、母の幸恵が駆け寄った。

「ゆ、百合!」

「か、加藤さんが!」

 母親の腕を振り解こうともがく三山の横を、駆け付けた警備員が走り抜けた。