報道局のニュースセンターで、アナウンサーの香田美沙は定時のニュース番組に備えて原稿チェックを行っていた。

 そこへディレクターが真っ蒼な顔をしながら新しい原稿を持って来た。

「全部差し替えだ!ソッコー臨時ニュースで番組に組み込むぞ!」

 香田美沙は、渡された新しい原稿に目を通した瞬間、全身に電流が走ったかのような緊張感を覚えた。

 乱れに乱れた原稿の文字が、事の重大さを物語っている。

 全部に目を通す間も無くカメラが向けられ、ディレクターの、

「五秒後、キュー入るぞ!」

 との声が響いた。

『只今入ったニュースです。先程午前九時半頃、霞ヶ関の警視庁で大きな爆発があり、多数の死傷者が出た模様です。爆発は、警視庁内の交通管制室で起こり、この為交通管制システムがストップ、首都圏の全ETC他、交通情報、幹線道路の信号が停止して居ります。又、同時刻に複数の場所で爆発があり、現在判明している所だけで、政府民自党本部、陸上自衛隊市谷駐屯地等でも同様の爆発があったようです。あっ、又新しいニュースです!本日午前九時四十分頃、中国大使館で爆発事故発生!中国側から、これは爆弾テロであるとの見解が発表されました……』

 日頃、どんなニュースでも冷静に原稿を読み上げる事で知られている香田美沙が、この日は何度も読み間違えたり、言葉を詰まらせたりした。