この数年、インターネットを利用した犯罪は多様化し、単純な振り込め詐欺に止まらず、ネット上での脅迫や恐喝も多くなって来た。又、闇サイトと呼ばれる違法行為を目的とした者が集まるサイトや書き込みも、後を絶たない。

 それらを専門的に取り締まるべく、警視庁は直属の課を新設していた。

 三山百合警視は、唯一女性キャリアとして、この新設されたサイバーパトロール課の初代課長として勤務していたが、この春から本庁内の資料室室長となっていた。

 役職的には局長職に相当し、課長職よりは序列が上になるのだが、実質的な権限は何も無い。

 元々、このような職務など定年間際の者が就くのが慣例で、言ってみれば閑職のようなものである。

 まだ三十代で、しかも女性キャリアの中では異例の昇進をし、新設された課の管理職にまでなって、マスコミからも注目を浴びた者が就くポストではない。

 三山警視が何故このような左遷人事を受けたかは、本庁内でその理由を知らぬ者はいない。

 が、誰もその事を公に語ろうとはしなかった。

 それは、ある種の緘口令が敷かれたからであった。

 当初、三山を捜査の一線から外す際、美人キャリアという事から、広報課に配属させる案もあったが、マスコミと触れる機会が多いというのは、何かと差し障りがあるであろうと考えられ、このように世間の目に触れさせない場所へ上層部は追いやったのである。