夏休みを控えた週末。

僕は母に呼び出され、恵比寿にある母の会社に顔を出していた。

「君が息子さんのサンジュウゴ君か」

久し振りに自分の名前をフルで呼ばれた。

母が僕を紹介した相手は、この会社の社長さん。

一目見て社長さんと判る位、貫禄があってやり手の匂いをぷんぷんさせている。

「いつも母がお世話になっています」

「うん、今時の子にしてはきちんと挨拶も出来るし、何より素直そうな目をしている」

会っていきなり褒められるというのも、何だかこそばゆい感じがする。

大体が、滅多に他人から褒められた事が無いから、もうそれだけでこの社長さんを好きになりそうだった。

「今日、サンちゃんを呼んだのは、夏休みの間だけアルバイトをしないかって話なの」

「バイト?」

「そう。多分、サンちゃんにとってもいい経験になると思うんだけどな」

母の説明では、取引先に斡旋した外国人が、ビザの関係で一ヶ月程帰る事になったそうで、その補充人員を探しているとの事だった。