ベッドの脇にある本棚の前に、紗矢花はいた。


「あ。見つかっちゃった」


読んでいた単行本から顔を上げ、悪戯っぽく笑った。

彼女はいつも俺の心をもてあそぶ。

抑えている想いを、無理矢理こじ開けるかのように。


「そこで何してるの?」

「遼が、どんな本を読んでるのか気になって」

「――紗矢花。男の寝室には入らない方がいいの、わかってるよね?」

「うん……?」


素知らぬ顔で紗矢花は本の続きを読む。俺はそんな彼女に軽く苛立ちを覚えた。

家に上がっている時点ですでに手遅れだけど。他の男の家にも軽々しく上がっているのかと思うと苛々が募る。

例えば、陽介や同じ学校の男とか――。


寝室を出ようと背を向きかけたとき、紗矢花が「痛っ……」と小さく声を上げた。

自分の指をじっと見つめる紗矢花。

どうやら本のページをめくった際に、指を切ってしまったようだった。


「大丈夫……?」

「ちょっと切っただけだから平気だよ」