「はいはい。――ちょっと営業」


だるそうに告げた陽介は、スマホを片手にリビングから出て行く。



扉が閉まり、遼と私は取り残される。

沈黙が訪れ、私はごまかすようにコーヒーを飲んだ。


「最近は、彼氏とうまくいってるみたいだね」


軽い沈黙を破ったのは遼だった。


「……どうかな? 今日だってほんとは一日中一緒にいる約束だったのに、仕事が入ったとかで夜からしか会えなくなったの」


私はコーヒーカップを持ったままうつむいた。

休日のバレンタインデーなのに、夜しか一緒にいられないなんて有り得ない。

まだ付き合いたての恋人同士のはずなんだから、一日中一緒にいてくれるのが当たり前だと思っていた。


「そういえば彼に、遼とは二人きりになるなって言われたから、もうご飯作ってあげられないかも。彼氏以外にご飯を作るのは浮気だって言われちゃった」

「……そんなこと言われたんだ。彼氏に悪いことをしたね」


申し訳なさそうに彼はつぶやく。


「ね、遼はどう思う? それも浮気かな?」