収録前日、レイがあの笑顔でみんなの前に帰って来た。

 檜町のスタジオを浅倉に言って、無理やり使わせて貰う事になった。

「フーさん、そりゃあレイちゃんの為ですから、何とかしない事もないですけど、よりによって僕の仕事時間を寄越せだもんなあ」

「融通が利きそうなのは、お前さんとこの時間しかないだろ」

「マジでフーさんろくな死に方出来ないっすよ」

「それでもお前さん程の地獄は見ないよ」

 私達のやり取りに、レイがあの笑顔ではしゃぐ。

 お帰りレイ……

 私は心の中でそう言った。

 ディープハートを完全に仕上げなければならない。

 もし最悪なら、明日の予選はレイの歌い慣れた曲に変更するしか無い。

 予選ならオリジナルでなくても構わないという、番組プロデューサからの指示だったが、レイは絶対この曲で出ると言って、遅くまで音合わせをした。

 心也がアレンジしたオケのテープは既に完成していて、何処でどういうツテを使ったのか判らないが、ブラスとオーケストラの音まで入っていた。

 スタジオ中に響くオケは、とても私が作った曲とは思えない位に贅沢な音色になり、音の厚みはフレーズ毎に趣を変えていた。

 少し懐かしい感じのブルースロック調で始まったかと思うと、間奏ではフルオーケストラの音が重厚に、それでいて少しも邪魔にならない音域で押さえてあった。

 サビの部分はアルトサックスのソロが被さり、トランペットが後押しをする。

 伏木心也の面目躍如といったところだ。

 私は思わず、

「こいつは、とんでもないもんだぜ……」

 と唸っていた。