散々な一日だった。誰もが黙りこくり、いつもなら脳天気な浅倉が場を和ませてくれるのだが、どうしても抜けられない仕事があるからと夕食前に帰った。

 居なくなってみると、急にそいつの存在が大きいものだと気付かされる奴が居るが、浅倉はそういう存在だったのだと改めて知らされた。

 レイの事だから、朝を迎えればケロッとしてみんなの前に顔を出すだろうと思っていたが、翌日も、その翌日も彼女は部屋に一日中篭りっきりだった。

 那津子が何度もレイの部屋をノックし、声を掛けたが、気分が悪いと言って会ってもくれなかった。

 那津子の傷心ぶりは、傍で見ていても辛くなった。

 責任を感じた、という訳ではないが、私も二度三度と部屋に行ってみた。

 結果は、那津子の時より酷くなった。

 返事が無かったので何度も声を掛けると、いきなりドアに何かが投げ付けられた音がした。その後に、

「ようすけなんて、死んじまえ!」

 の罵声が響いた。

 結局、愛光園での合宿は、最後の四日間をレイ不在で過ごす事になってしまった。

 私は、那津子をそのまま愛光園に置いて行く事に躊躇いを感じ、久し振りに南平台のマンションに来ないかと誘った。

「ずっと居ろとは言わないよ。君が居たい間だけ居ればいい」

「ありがとう。そうしようかな……」

 迎えに来た浅倉もそうしろと言った。

「でも、やっぱりここに居る」

「何だよ、せっかくフーさんが言ってくれてんだからさあ、この人の気が変わんないうちに、早く車に乗っちまえよ」

「ううん。残る。ちゃんとレイちゃんと向き合わなきゃ。このままだと、私逃げちゃうみたいだし。それに、収録に出れるようにあの子を、ね」

「そうだな。あの子を頼むよ」

「判った。陽介……」

「ん?」

「あの子の気持ち、ちゃんと大人の男性として判らなきゃ駄目よ」

 どう言葉を返していいものかと考えているうちに、那津子はスカートを翻して建物の中へと消えて行った。