「レイ、今日はもうやめよう。風間、その方がいいだろ?」

「そうだな。今のレイじゃ、歌えば歌う程酷くなって行くかも知れないからな」

「なんで、ねえ二人ともどういうことさ」

 レイが私と心也に食って掛かって来た。車椅子から転げ落ちるかと思う程の激しさで、不自由な身体を何度も揺り動かした。

 深海魚が慌ててレイを抱きかかえようとしたが、彼女はその手を振り解こうと懸命に跳ね除けた。

「ぼくが歌いたいって言ってるんだ。ようすけだって、なっちゃんが止めるまではもう一度って言ってたじゃないか。ねえ、歌わせてよ!」

「レイ、今言った歌いたいって気持ち、お前が持っている本当のものとは違っているよ」

「……!?」

「風間、今はそれ以上言わなくてもいいだろ」

「いや。彼女は判っているんだ。この詩にも書いてあるじゃないか。同情や憐れみをこの子は一番嫌っているんだ。いいか、レイ。俺がさっきもう一度と言ったのは、お前が楽しむ気持ちを失くし掛けていたからなんだ。レイの歌は、心底歌う事が好きだ、という思いで溢れているからこそ、レイの歌になるんだ。例え悲しい歌であってもだ。この曲だってそうだ」

「じゃあ、楽しんで歌えばいいんでしょ?」

「那津子にああ言われて、お前の心は別な所へ行ってしまった。純粋に、楽しむ気持ちになれないだろ?だから、」

「もういい!ようすけのバカ!」

 レイの泣き声に被さるように、浅倉に抱かれていた那津子の嗚咽が聞こえて来た。