私を知る人間は、お前は若い頃から女心に鈍感な奴だな、と言う。

 そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。

 一つだけ判っている事は、私は面倒な事からすぐ逃げる奴だという事。

 それと、自分の気持ちをきちんと言葉にして伝えるのが苦手な人間だという事。

 伝える事が苦手だから、それが面倒になり私は逃げてしまう。

 那津子の事も含め、三度の結婚生活のいずれもが上手く行かなかった原因は、全てこの自分の性格から来ているのだと思う。

 レイの私に対する感情が、普通のものではない事など、さすがの私でも感付く。

 と言うより、気付かないように無理やり気持ちを閉ざそうとした。

 一方で、レイに対する自分の気持ちが特別なものになって行く事に狼狽した。

 自分の歳を考えたか?

 相手はまだ子供じゃないか……

 それも、穢れを知らない……

 俺が特別な感情を抱いているのは、彼女の才能に対してであって、彼女自身にではない。

 そう思う事で、私の心は辛うじてバランスを保っていた。