「どうですもくそもないだろう。こっちに一言も話を持って来ないで勝手に進めやがって」

「あれえ、フーさん反対なんすか?」

「誰も反対とは言っていない」

「じゃあ、もーまんたいちゅう事で。あっ、言い忘れてました。ロンリーハーツが玲ちゃんのバックバンドで復活。これが最後の条件でした」

 余り驚き過ぎて言葉を失ってしまった。

 玲の為に曲を書く事は最初からそのつもりだったから良いとして、私達までもが引っ張り出されるとは思いもよらなかった。

 不機嫌そうに無言を決め込んだ私を見て、浅倉はしきりに機嫌を取るかのように話し掛けて来た。

「番組プロデューサの小坂が、実はロンリーハーツのファンだったらしくて、玲ちゃんの話を持ち掛けた時に、盲目の天才少女シンガーもいいけど、どうせ楽曲をフーさんとシンさんが手掛けるのなら、いっその事バンドを復活させて玲ちゃんとセットでドッカーンといった方がインパクトあるだろうって…ねえ、フーさん人の話、聞いてます?」

「お前が延々と話し続けているから、頷く事も出来ないよ」

「そんなに喋ってました?やっぱ寝てないからナチュラルハイになってんのかな」

「それはそうと、プロデューサの小坂って、歳幾つだ?」

「確か三十半ばだったかな」

「その歳じゃ俺達が解散した後に生まれてるって事になるぜ。浅倉、計算合わないぞ」

「そんな事ないでしょ。二十代のビートルズマニアだっているんですから」

 ポールやジョンを俺達と一緒にしたら罰が当たるぞと言いたくなった。多分、この話は浅倉の作り話だろう。まあ、業界に居れば名前位は耳にしていたかも知れないが、私達が何枚シングルを出したかと尋ねた時に、答えられない方へ持ち点全部を掛けてもいい。

 浅倉なりの気遣いというか、私のモチベーションを上げさせる為の嘘と判っているから、私もそれ以上は突っ込まない事にした。

 玲を世に送り出すという話が、俄かに妙な方向に走り出してしまった。

 然程忙しくなかった私の日常が、四十年前のデビューを目前にした頃のような慌しさに変わった。