「この教室よ」

 那津子が扉を開けた途端、浅倉のハイテンションな声が飛んで来た。

「フーさん、遅いっすよ」

「お前、何してんだ?」

「何って、玲ちゃんのバースデイじゃないすか、来ない訳にはいかなっいっしょ」

「仕事はどうした?」

「フーさんと違って、バッチリ働いてました。朝の七時までね」

 こいつの行動力の源を知りたくなって来た。

 パーティの準備を手伝っていた他の職員と挨拶を交わしていると、

「ヤッホー!」

 と、私達の声を聞き付けた玲が、素っ頓狂な声を出しながら手を挙げた。

「誕生日おめでとう」

 私は手にしていた花束を彼女に差し出した。

 玲は手に取る前に、それが花束だと匂いで察し、

「これ、薔薇だぁ!」

 と、花の種類まで嗅ぎ当てた。

「ねえ、何色の薔薇?」

「色かい、赤だけど」

「ぼくに?赤を……ねえねえ、全部?全部赤なの?」

「そうだ」

 玲の喜びようは、私をたじろがせる程だった。