心也が顔を上げたのは、私が三杯目のバーボンを注文する寸前であった。

「……まいった」

 彼はその一言だけを言うと再び押し黙り、私の事など眼中に無いかの如く、立て続けにウイスキーを二杯飲み干した。

「シンさん、黙ってばかりいないで、ちょっとは何か言って下さいよ。これじゃまるでお通夜みたいだ」

「ダイちゃんは年中花見だから、これで丁度バランスが取れてるのよ」

「ママ、僕が花見って、それ褒めてんすか?それともけなしてんすか?」

「お前が褒められるタイプかよ」

「マスターまで、たく、この店は客を何だと思ってんだか」

「わざわざ俺を呼び出したのは何の用事だ?まさか、同窓会を始めますからって訳じゃないんだろ」

「少しはありますけどね。でも、メインはちゃんと別。玲ちゃんの事っすよ」

「そうじゃなかったら、俺はこいつを飲んでとっとと帰るところだ」

「シンさんにね、玲ちゃんの事を話したんすよ。そしたら、お前の話はいつも大袈裟だから信用出来ないって言うもんすから、那津子にあの子のCDを送って貰ったんす。それで、今日届いたんで、早速聴かせて上げようとここに誘ったという話です」

「風間、俺もシンが来る前に聴かせて貰ったよ」

 深海魚が珍しくビールのジョッキを片手に話し掛けて来た。仕事中は、滅多に飲まない奴で、余程良い事が無い限り、ジョッキを持つなんて無かった。深海魚も、玲の雷に打たれた口か。