玲ほどの才能を目の当たりにしてしまうと、自分の持っていた自信などというものは、煙のように消し飛んでしまうものだ。

 自信を思い上がりと勘違いしながら、四十年近くこの世界で生きて来ただけ。いや、漂っていただけだ。

 けれども、私の中に新たに生まれたものは、玲という類い稀な才能に、少しでも己の何かが交われないだろうかという渇望であった。そこには、自分の思い上がった感情など、微塵も無い。

 香坂玲という存在には、そういう思い上がりを打ち砕いてしまう、厳かで尊いものがあるからだ。

「私は具体的に何をすればいいの?」

「今までと同じ、心身両面からサポートして上げる事。マネージャーとしての役割になるから、何かと大変だとは思う。まあ、これまでもそうして来た訳だから、大丈夫だろう。特別な事をする必要は無いと思う。あの子は、何と言ってもまだ十六の少女だ。君のように優しい気持ちを持った良き理解者が、これから先も必要になる」

「貴方だって充分優しいのに……」

「俺のは、本当の優しさじゃないよ」

「そうやって、いつも自分を悪く言うのね。それって、上辺だけ見れば謙虚さに思えるけれど……」

「判っている。君の言いたい事は……」

「そうね。今夜はあの子の話をする為の時間だものね。そうと決まればすぐにでも走り出さなきゃ。帰るわ」

 私に引き止める意思が無い事を彼女は最初から判っていた。本来ならば、ここで私は那津子に、朝まで一緒に居てくれと言うべきだったかも知れない。だが、私はそうしなかった。

 彼女には多少の期待があったと思う。男と女の機微に幾ら疎い私でもさすがに気付く。わざわざ化粧を直し、ドレスで着飾って来たという事で……。

 尤も、これも私の思い上がりから来る勘違いかも知れないが……。