「正しく、砂漠が水を吸い込むようにってやつか」

「それ以上かも。私達の想像を超えているのは確か。貪欲というのか、全てに対して渇望しているような感じかな。あの子に限らず、障がいを持って生まれた子、ハンデを背負った子は、何かに興味を持ち始めたらとことんまで吸収したがるの」

「俺達みたいに五体満足な人間程、人生に切実感を持たないからな。いつでも明日があるさなんて、脳天気に構えてしまい、全てを先送りしてしまう。君はそんな中でも稀有な存在かも知れないがね」

「そうでもないわよ。私にしても、あの子達に比べたら、目の前の事から逃げているケースが多いもの。それはそれとして、あの子をどう具体的に表舞台に引き上げるつもり?」

「先ずはオリジナルの楽曲だな。で、インディーズデビュー。メディアへの橋渡しは、浅倉が考えるだろうから、メジャーデビューまでの間は、昨日のように路上ライブをやるなり、ライブハウスを回るなりして、口コミで香坂玲を世間に認知させる。素材はあの通りとんでもないものなんだから、間違いなく注目は集まると思う。
 ただそれにしたって、優れた楽曲がなければ意味が無い。カバーという手もあるが、あの子の個性に見合ったオリジナルを出した方がインパクトはより大きいだろうからね。尤も、あの子に曲を書きたいと思っている俺が、果たしてそういう曲を書けるかが問題だけど」

「何だか、最後のところだけ自信無さ気ね。貴方じゃないみたい」

 私は奈津子の言葉に、そうだな、と頷いていた。