「じゃあ、一曲だけですよ」

 暫く考え込んでいた警官は、少しだけ笑みを見せながらそう言い、同僚達に輪の外へ出るようにと指示をした。

「やったあ!」

 誰からともなく沸き起こった歓声と拍手が、それまでの事情を知らずにこの場所を通り掛かった通行人達を何事かと思わせた。

「ほら、みんな最後の曲を聴きたがっているよ」

 私の言葉に促されて、那津子は玲の前に再びマイクを置いた。

 浅倉も、アンプのセッティングを手伝っている。

 集まっていた人々からは、拍手が続いていて、いつしかそれは手拍子に変わっていた。

 まるで、コンサート会場で沸き起こる、アンコールの手拍子のようだった。

 玲の表情に、再び喜びに満ち溢れた笑顔が戻った。

 セットされたマイクに手を伸ばし、玲はやや俯きながら語り始めた。

「ほんとうに、みなさんありがとう。なんて言っていいのか、うまく言えないけど、ありがとうしか言えないけど、最後の曲を歌います。おまわりさん、ありがとう」

 年嵩の警官は、玲から言われた言葉に照れ笑いを浮かべた。

 そして、玲がラストに選んだ曲は、

『JOYFUL,JOYFUL』だった。