「という事で、今週の土曜の夜、フーさん一緒に行きません?」

「何だよ、最初からそういう話に持って行くつもりだったのか?」

「こういう段取りはお任せ下さい。尤も、フーさんにも聴いて貰いたいって言い出したのは、那津子の方なんですけどね」

 私は、仕方ないなという顔をし、土曜日の待ち合わせ場所と時間を決めた。

 那津子と会うのはいつ以来だろうかと思い返してみたが、情け無い事にその記憶がぼやけていて思い出せなかった。

 この時、まさかその週末が、那津子流で言うところの「とんでもないもの」と出会う事になろうとは、夢にも思っていなかった。

 それは、私のみならず、日本国中が「とんでもないもの」と出会う瞬間でもあった。

 とんでもないもの……

『香坂玲』と……

 梅雨入りが宣言された、やたらと蒸す六月終わりの事であった。