控え室にはステージの様子が伝わらない。微かに音が聴こえて来るような気がするだけだ。控え室には私達だけが居た訳ではなかったから、先にステージを終えた者達の表情を窺う事が出来た。

 やり終えた安堵感から虚脱状態になっている者。自分達の思っていた以上に出来が良かったのか、達成感に浸っている者も居る。そして、刻々と迫る自分達の出番に向けて気持ちを集中させる者達。

 六番目がステージに向った。次が、レイ&ロンリーハーツ。私達だ。

「レイ、ちょっといいか」

「なあに?」

「どんな結果になろうと、俺は今日のステージにお前と立てた事を一生の誇りにしたい。だから……」

「だから?」

「さいっこう、のお前を日本中に見せてやれ」

「あは、ようすけ、カッコ付け過ぎ。始まる前からそんな取って置きのセリフを言っちゃったら、終わった後はなんて言うのさ」

「決まってんだろ」

 その時、私だけでなく、みんなが声を揃えてこう言った。

「さいっこう!」

 緊張感が高揚感に変わり、一気にプラスの電流となってみんなの気持ちを一つにした。

「七番目、スタンバイお願いします」

 スタッフから声が掛かった。レイの車椅子を先頭に、私達は狭い通路を向う。前の組で出番を終えたバンドの面々がレイを見て、

「頑張って!」

「ファイト!」

「落ち着いて!」

「しっかりね!」

 と、声を掛けてくれた。この場所では誰もレイの事を障がい者だとか、普通と違う人間だとか思っていない。みんな、共通の絆で繋がれた者という意識しかない。

 レイは、一人一人とハイタッチをし、ピースサインをした。