私は携帯電話を取り出し、那津子の番号を呼び出した。

 レイの『ディープハート』が耳元で流れ、すぐに那津子の声に変わった。

「いつの間に待ち受けの音をディープハートにしたんだい?」

(もう随分経つわよ)

「知らなかった」

(だって、電話をするのはいつも私の方からだもの)

「そうだったかな」

(そうよ。それはそうと、どうしたのよ?)

「ちょっと待っててくれ」

 私は電話をレイの手に握らせた。

「那津子と話したいんだろ?」

 レイは少し間を置いてから、電話を口元に近付けた。

「なっちゃん……」

(レイちゃん?)

「……」

「ほら、何か言ってやれよ」

 こくんと頷き、レイは深く息を吸い込んだ。

「あのね、帰って来て……ぼくを許して。なっちゃんが居ないと……」

(……うん)

「今からすぐ来れる?」

(行っていいのね?)

「早く来て、じゃないと……ぼく、ようすけに襲われちゃうからさ。ようすけを退治しに来て、なっちゃん」

 泣いているような、笑っているような、そんな顔をしながら、レイは私にピースサインを見せた。彼女の手から携帯電話を返して貰い、

「那津子、早く来ないと、俺はレイに身に覚えの無い罪で訴えられてしまうよ」

(もう貴方達ったら……)

 涙で鼻を啜る音が伝わって来た。