初ライブの余韻が覚めやらぬまま、私達は深海魚でその日の打ち上げをやった。

 行くと、心なしか普段より客が入っている。

 ツカはマスターに戻り、カウンターの中でオーダーと格闘をし始めた。

 久々にてんてこ舞いになっている深海魚の姿を見た。

 合間を縫って深海魚の恋女房が浅倉の席へ来て、

「ダイちゃん、ありがとうね」

 浅倉が何の事だろうと聞き返す間もなく、恋女房は再び忙しそうに客の間を泳ぎ回った。

「急にどうしたんすかね?突然礼を言われても、何が何だか判んないすよ」

 きょとんとした浅倉に、深海魚の恋女房は遠目でウインクをした。

「ウ、ウインクまでされちゃいましたよ。普段けなされてばかりだから、薄気味悪くなって来た」

「浅倉、察しろよ。惚れた旦那が又昔みたいにカッコよく思えたんだろ。お前がロンリーハーツを引っ張り出さなかったら、あいつは深海魚のマスターのままで終わっていた。それが、昔のツカに戻ったんだ。かみさんにしてみれば、礼の一つも言わなきゃって思ったんだろ」

「それなら、これからここの飲み代をずっとタダにしてくれないかな」

「俺達より稼いでいる奴が言う台詞じゃないな」

「しょうがないよ風間、ダイはきれいなお姉ちゃんに稼いだ分をそっくり貢いでいるから、ここの分まで財布が回らないのさ」

「あー、シンさんいいんですかそんな事言って。この前、自分にキャバクラの勘定払わせといて、とっととアフター行くぞぉ!て、」

「兄さん、レイちゃんが居るんだから」

 那津子に窘められて舌を出す浅倉。このところのやっこさんはテンションが上がりっ放しだ。