ハルさんのライブハウスは、下北沢の駅から程近い場所にある。

 キャパ的にはオールスタンディングでも七、八十人入ればいい方の、小さなライブハウスだ。

 小田急線の線路沿いの住宅街に少し入ると、路地の角に置かれた『サムタイム』という看板が目に飛び込む。

 小さなライブハウスではあるが、プロ、アマ問わずその名前は音楽を志すものなら誰でもが一度は耳にする。

 特にアマチュアのバンドやインディーズ系のミュージシャンにとって、ここのステージに立つ事はある種のステータスになっていた。

 その『サムタイム』で定期ライブを組める。幾らハルさんが私達のファンクラブの会長だからといっても、普通はこうも簡単に話が運ぶものではない。

 レイの帰る時間を考えて、夕方の六時開演という事で正式にライブの日程が決まった。

 第一回目は九月の第二土曜日。つまりNEXT ONEの放送の翌日になった。

 幾ら人気のオーディション番組とはいえ、たった一日しか間が開いていないから、そうは認知度は上がっていないだろう。誰もがそう思っていた。宣伝らしい宣伝もやらず、ハルさんが店内告知をした位だった。

 早い時間からのライブだから、せいぜい半分も客席が埋まっていてばいいだろうと思っていたら、それこそとんでもない事になっていた。

 ハルさん自身、二、三十人も入ってくれればというのが正直な気持ちだったようだ。だから、テーブル席もそのままにしていたのだが、実際には開演前にも関わらず、店内に入り切れない程客が集まった。

 急遽テーブル席を取っ払い、オールスタンディングに切り替えた。それでも立錐の余地が無い位で、レイの車椅子をステージまで押して行くのに一旦客に店の外へ出て貰う程だった。

 当初予定していた一時間半のライブは、気付いたら一時間近くもオーバーする程。

 この夜からレイのライブ伝説が始まったと言っていい。