年寄りの酒は、意外と長っ尻だ。夜中になってもみんなの興奮状態は続いていた。もう殆ど当事者である私達以上で、寧ろ深海魚などはいつもの寡黙なマスターに戻っていたし、心也も専売特許のしかめっ面をしながらコロナの瓶を手にしていた。

 普段なら、とっくにベッドに入らなければならないレイは、那津子と一緒に深海魚の所に泊めて貰う事になっていた。

 おそらく滅多にない外泊なのだろう、レイのテンションの高さは浅倉をもたじろがせた。

 高ぶった気持ちを抑え切れなかったのだろう、気が付いたら彼女はみんなと歌い出していた。

 巧いも下手も関係ない。その歌を知ってようが知るまいがどうでもよかった。

 そこに歌がある。

 伴奏はそれぞれの手拍子であり、床を踏み鳴らす靴の音であり、マドラーでグラスを叩く音であった。

 アカペラでコーラスを始めたかと思うと、

「下手くそ引っ込め!せっかくレイちゃんが歌ってんだから!」

 という野次が笑い声とともに飛ぶ。

 みんな、自らの若かりし頃へタイムスリップしたかのように、夜更けの喧騒に身を任せた。

 こう言うと何だか絵になるような風景だが、実際はただのジジイとババアが年甲斐も無くドンちゃん騒ぎを繰り広げただけなのだが。

 漸くみんなが歳相応に疲れを見せ始め、ぼちぼちと家路に着きだした。

 帰り際ハルさんが傍に来て、

「よかったら今度うちの店でライブをやらないかい」

 と言って来た。

「なんだったら今度の土曜日からでもいいよ。あんた達で定期ライブの予定を組んでも構わない」

 ハルさんの申し出は願ってもない事だった。

 レイは、

「ライブ!ライブ!ライブ!」

 と手を叩いてはしゃぎ、少年のような顔をいっそう無邪気に輝かせた。