「さあ、フーちゃん、どんなふうだったか教えて」

「どんなふうって、もう結果は聞いてるんでしょ」

「当たり前じゃない。本選出場が決まったって聞いたから、みんなこうして駆け付けてんでしょ。みんなが知りたいのは、その中身よ」

「放送なら九月の第二金曜日にありますから」

「もう、この人はいつもそうやって人を焦らすんだよね」

「風間さん、みんなどんなステージだったかを聞きたいんすよ」

 乾杯をした途端に浴びせられる質問。

 私は、収録の模様を話し始めた。

 まさに、ノックアウトさせたってやつだった。

 レイを知る者であれば、誰もがそういう結果になるだろうとは想像が付く。しかし、初めて彼女を目の当たりにした者達は、ハートを射抜かれ、魂を鷲掴みにされる。それが、リハーサルの初っ端から起きた。耳の肥えている筈の番組スタッフ達は勿論の事、他の出場者達全員がぶっ飛んだ。

 上品な感嘆詞じゃ表現出来ない位に、彼等もとんでもないものに出くわしたのである。

 本番はそれ以上だった。

 第一声がスタジオ内に響いた瞬間、初めてレイを見た者は口をあんぐりとし、信じられないという表情をした。既にリハーサルで彼女の歌を聴いた者達は、その光景を見て、まるで自分達の事のように喝采を上げた。

 ライバル達が信者になった。

 冷静に傍観すべき者が、仕事そっちのけで彼女のステージに歓喜の声を上げる。

 リハーサルを見ていない審査員と観客達は、そこが審査の場である事を忘れ、後半のサビの時には観客全員が手を頭の上に挙げ手拍子を打った。

 レイのボーカルは圧倒的で、彼女のピアノは、それまで以上に踊っていた。オーディエンスから力を得れば得る程、彼女の歌とピアノは躍動感を増す。レイはきっと生まれ付いてのライブアーティストなのかも知れないと、私は改めて気付かされた。